2007年7月18日水曜日

残留孤児支援*尊厳回復の課題は多い

 中国残留孤児が政府に賠償を求めていた集団訴訟が終結することになった。
 政府・与党がまとめた新たな支援策を孤児と弁護団が受け入れたのだ。
 制度の法案化を確認した後、札幌など全国の原告団が訴えを取り下げる。
 国策の「満州移民政策」によって生まれた残留孤児の帰国後の生活を支えるのは政府の責務だ。血の通った支援を着実に実行してほしい。
 東京地裁に最初に訴訟が提起されてから四年半になる。この間、結果を見届けずに三十人ほどが亡くなった。
 中国で、そして、祖国に帰った後も辛酸をなめた孤児の境遇を思えば、支援策の決定は遅きに失した。
 新たな支援制度の下では、現在は三分の一支給の国民年金を満額(月額六万六千円)支給する。生活保護に代わる給付金制度を設け、単身世帯で月額最大八万円を上乗せして出す。
 医療、介護、住宅の費用も収入の状況に応じて政府が負担する方針だ。
 孤児の多くは日本語が不自由で、高齢化しているため、満足な職を得られず、全国で六割、道内では八割が生活保護を受けている。
 政府が生活保護制度を下敷きにした支援策の素案を四月にまとめた際、孤児たちは「これだと、行政が収入状況を頻繁に確認する。生活を監視される惨めさは変わらない」と反発した。
 ただ、新たな支援策にも生活保護の要素が残っている。行政が収入状況を調べ、勤労収入、厚生年金の支給があれば給付金を減らす仕組みなのだ。
 政府は「収入認定」は年一回にとどめる方針だが、孤児の生活に安易に干渉しないよう配慮すべきだ。
 孤児が全国十五地裁に起こした訴訟で、現段階で原告が勝訴したのは昨年十二月の神戸地裁だけだ。判決は、政府に対し「孤児の被害を救済すべき高度の政治的責任を負う」と断じた。
 司法による解決の道が事実上閉ざされた以上、あとは政治決着しかない。
 孤児たちは参院選の日程を視野に、「いまを逃せばまとまるものもまとまらない」と決断した。不安を残しつつ支援策を受け入れざるを得なかった心情を政府は忘れてはいけない。
 支援策は孤児たちが日本人としての尊厳を取り戻すための第一歩だ。
 今後さらに、日本語の習得や医療・介護への支援、二世、三世への就労支援をはじめ、家族を含めた生活全般への支援を充実させる必要がある。
 支援策の実効性を検証するため、孤児たちと行政の定期的な協議の場を設けることも検討課題ではないか。
 孤児たちは老後への備えができないまま、七十歳前後になった。祖国での生活の安定と安らぎを求めている。
 「帰って来て本当によかった」と思ってもらうため、地域社会で孤立させるようなことがあってはならない。

(北海道新聞より引用)

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